でんえんのしぼ
田園の思慕

冒頭文

獨逸の或小説家がその小説の中に、田園を棄てて相率ゐて煤煙と塵埃とに濁つた都會の空氣の中に紛れ込んで行く人達の運命を批評してゐるさうである。さうした悲しい移住者は、思ひきりよく故郷と縁を絶つては來たものの、一足都會の土を踏むともう直ぐその古びた、然しながら安らかであつた親讓りの家を思ひ出さずにはゐられない。どんな神經の鈍い田舍者にでも、多量の含有物を有つてゐる都會の空氣を呼吸するには自分の肺の組織の

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「田園 第一號」1910(明治43)年11月

底本

  • 啄木全集 第十卷
  • 岩波書店
  • 1961(昭和36)年8月10日