せいしんあん
清心庵

冒頭文

一 米と塩とは尼君が市(まち)に出で行(ゆ)きたまうとて、庵(いおり)に残したまいたれば、摩耶(まや)も予も餓(う)うることなかるべし。もとより山中の孤家(ひとつや)なり。甘きものも酢きものも摩耶は欲しからずという、予もまた同じきなり。 柄長く椎(しい)の葉ばかりなる、小(ちいさ)き鎌を腰にしつ。籠(かご)をば糸つけて肩に懸け、袷(あわせ)短(みじか)に草履穿(は)きたり。かくてわ

文字遣い

新字新仮名

初出

「新著月刊」1897(明治30)年7月

底本

  • 泉鏡花集成3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1996(平成8)年1月24日