きふじん |
貴婦人 |
冒頭文
一 番茶を焙(ほう)じるらしい、いゝ香気(におい)が、真夜中とも思ふ頃芬(ぷん)としたので、うと〳〵としたやうだつた沢(さわ)は、はつきりと目が覚めた。 随分(ずいぶん)遙々(はるばる)の旅だつたけれども、時計と云ふものを持たないので、何時頃か、其(それ)は分らぬ。尤(もっと)も村里(むらざと)を遠く離れた峠(とうげ)の宿で、鐘の声など聞えやうが無い。こつ〳〵と石を載せた、板葺屋根
文字遣い
新字旧仮名
初出
「三越」1911(明治44)年10月
底本
- 日本幻想文学集成1 泉鏡花
- 国書刊行会
- 1991(平成3)年3月25日