しょほうひせん
処方秘箋

冒頭文

一 此(こ)の不思議なことのあつたのは五月中旬(なかば)、私が八歳(やっつ)の時、紙谷町(かみやまち)に住んだ向うの平家(ひらや)の、お辻(つじ)といふ、十八の娘、やもめの母親と二人ぐらし。少しある公債を便りに、人仕事(ひとしごと)などをしたのであるが、つゞまやかにして、物綺麗(ものぎれい)に住んで、お辻も身だしなみ好(よ)く、髪形(かみかたち)を崩さず、容色(きりょう)は町々の評判、以前五

文字遣い

新字旧仮名

初出

「天地人」1901(明治34)年1月

底本

  • 日本幻想文学集成1 泉鏡花
  • 国書刊行会
  • 1991(平成3)年3月25日