アカシヤのはな
アカシヤの花

冒頭文

一 たしか長春(ちやうしゆん)ホテルであつたと思ふ。私はその女の話をBから聞いた。しかし、それはその女を主としての話ではなしに、その長春の事務所長をしてゐるS氏の話が出た時に、Bは画家らしいのんきな調子で、莞爾(にこ〳〵)と笑ひながら言つたのであつた。「君、Sさんは、あゝいふ風に堅い顔をしてゐるけれどもね。あれで中々隅に置けないんですよ」 「さうかね?」かう言つた私には、五十近い、それ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「東京 第一巻第一号」実業之日本社、1924(大正13)年9月1日

底本

  • 定本 花袋全集 第二十一巻
  • 臨川書店
  • 1995(平成7)年1月10日