ふきつのおととラシステキューのかね
不吉の音と学士会院の鐘

冒頭文

昼も見えたそうだね。渋谷(しぶや)の美術村は、昼は空虚(からっぽ)だが、夜になるとこうやってみんな暖炉(ストーブ)物語を始めているようなわけだ。其処(そこ)へ目星を打って来たとは振(ふる)っているね。考えてみれば暢気(のんき)な話さ。怪談の目星を打たれる我々も我々であるが、部署を定めて東奔西走も得難いね。生憎(あいにく)持合(もちあわ)せが無いとだけでは美術村の体面に関(かか)わる。一つ始めよう。

文字遣い

新字新仮名

初出

「新小説 明治四十四年十二月号」春陽堂、1911(明治44)年12月

底本

  • 文豪怪談傑作選・特別篇 百物語怪談会
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 2007(平成19)年7月10日