ていけんせんせい
鼎軒先生

冒頭文

鼎軒先生には一度もお目に掛かつたことがない、私は少壯の頃、暇があれば本ばかり讀んでゐたので名家の演説などをもわざ〳〵聽きに往つたことが殆ど無い、そこで餘所ながら先生のお顏を見る機會をも得ないでしまつた、 先生がアアリア人種に日本人も屬するといふことを論じた小册子を出された頃であつた、友人上田敏君が宅の二階に來て、話をしてゐられた、私はふいと思ひ出して、かう云つた、 「僕は此頃田口卯

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「東京經濟雜誌 第六十三卷第千五百九十一號」1911(明治44)年4月22日

底本

  • 鴎外全集 第二十六卷
  • 岩波書店
  • 1973(昭和48)年12月22日