ほんやくについて |
翻訳に就いて |
冒頭文
翻譯上の謬見 此本に是非翻譯に就いて何か書いてくれと云ふことである。予を翻譯者の中の主な一人だと思つてゐるものと見える。さうかと思ふと、一方には予の翻譯は殆皆誤譯だとして、予に全く翻譯の能力がなく、予の翻譯に全く價値がないと言ひ觸らしてゐるものもある。 近頃は翻譯書と云ふ翻譯書を予の家に持ち込んで、序文を書かせることが流行る。何の縁故もない人が皆持ち込んで來るのである。中には衆愚が
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「現代二十名家文章作法講話」東京萬卷堂、1914(大正3)年12月
底本
- 鴎外全集 第二十六卷
- 岩波書店
- 1973(昭和48)年12月22日