やくぜんやくご
薬前薬後

冒頭文

草花と果物 盂蘭盆(うらぼん)の迎い火を焚くという七月十三日のゆう方に、わたしは突然に強い差込みに襲われて仆(たお)れた。急性の胃痙攣(いけいれん)である。医師の応急手当で痙攣の苦痛は比較的に早く救われたが、元来胃腸を害しているというので、それから引きつづいて薬を飲む、粥(かゆ)を啜(すす)る。おなじような養生法を半月以上も繰返して、八月の一日からともかくも病床をぬけ出すことになった。病人に

文字遣い

新字新仮名

初出

「東京」1925(大正14)9月号、「時事新報」1926(大正15)年8月19~22日

底本

  • 岡本綺堂随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2007(平成19)年10月16日