はるのしゅぜんじ |
春の修善寺 |
冒頭文
十年ぶりで三島駅から大仁(おおひと)行の汽車に乗換えたのは、午後四時をすこし過ぎた頃であった。大場駅附近を過ぎると、ここらももう院線の工事に着手しているらしく、路(みち)ばたの空地に投げ出された鉄材や木材が凍ったような色をして、春のゆう日にうす白く染められている。村里のところどころに寒そうに顫(ふる)えている小さい竹藪は、折からの強い西風にふき煽(あお)られて、今にも折れるかとばかりに撓(たわ)み
文字遣い
新字新仮名
初出
「読売新聞」1918(大正7)年1月27日
底本
- 岡本綺堂随筆集
- 岩波文庫、岩波書店
- 2007(平成19)年10月16日