ねんがゆうびん
年賀郵便

冒頭文

新年の東京を見わたして、著るしく寂しいように感じられるのは、回礼者の減少である。もちろん今でも多少の回礼者を見ないことはないが、それは平日よりも幾分か人通りが多いぐらいの程度で、明治時代の十分の一、ないし二十分の一にも過ぎない。 江戸時代のことは、故老の話に聴くだけであるが、自分の眼で視(み)た明治の東京——その新年の賑(にぎわ)いを今から振返ってみると、文字通りに隔世の感がある。三ヶ日

文字遣い

新字新仮名

初出

「モダン日本」1935(昭和10)年1月号

底本

  • 岡本綺堂随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2007(平成19)年10月16日