しまばらのゆめ |
島原の夢 |
冒頭文
『戯場訓蒙図彙(ぎじょうくんもうずい)』や『東都歳事記』や、さてはもろもろの浮世絵にみる江戸の歌舞伎の世界は、たといそれがいかばかり懐かしいものであっても、所詮(しょせん)は遠い昔の夢の夢であって、それに引かれ寄ろうとするにはあまりに縁が遠い。何かの架け橋がなければ渡ってゆかれないような気がする。その架け橋は三十年ほど前から殆(ほとん)ど断えたといってもいい位に、朽ちながら残っていた。それが今度の
文字遣い
新字新仮名
初出
「随筆」1924(大正13)年1月号
底本
- 岡本綺堂随筆集
- 岩波文庫、岩波書店
- 2007(平成19)年10月16日