こうがいせいかつのいちねん おおくぼにて |
| 郊外生活の一年 大久保にて |
冒頭文
震災以来、諸方を流転して、おちつかない日を送ること一年九ヵ月で、月並の文句ではあるが光陰流水の感に堪えない。大久保へ流れ込んで来たのは去年の三月で、もう一年以上になる。東京市内に生まれて、東京市内に生活して、郊外というところは友人の家をたずねるか、あるいは春秋の天気のいい日に散歩にでも出かける所であると思っていた者が、測らずも郊外生活一年の経験を積むことを得たのは、これも震災の賜物といっていいかも
文字遣い
新字新仮名
初出
「読売新聞」1925（大正14）年6月1日
底本
- 岡本綺堂随筆集
- 岩波文庫、岩波書店
- 2007（平成19）年10月16日