げんのすけのいっしょう
源之助の一生

冒頭文

田圃の太夫といわれた沢村源之助も四月二十日を以て世を去った。舞台に於ける経歴は諸新聞雑誌に報道されているから、ここにはいわない。どの人も筆を揃えて、江戸歌舞伎式の俳優の最後の一人であると伝えているが晩年の源之助は寄る年波と共に不遇の位地に置かれて、その本領をあまりに発揮していなかった。 源之助が活動したのは明治時代の舞台で、大正以後の彼は殆(ほとん)ど惰力で生存していたかの感があった。し

文字遣い

新字新仮名

初出

「読書感興」1936(昭和11)年7月号

底本

  • 岡本綺堂随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2007(平成19)年10月16日