おもいでぐさ
思い出草

冒頭文

一 赤蜻蛉 私は麹町(こうじまち)元園町(もとぞのちょう)一丁目に約三十年も住んでいる。その間に二、三度転宅したが、それは単に番地の変更に止(とど)まって、とにかくに元園町という土地を離れたことはない。このごろ秋晴(しゅうせい)の朝(あした)、巷(ちまた)に立って見渡すと、この町も昔とは随分変ったものである。懐旧(かいきゅう)の感(かん)がむらむらと湧く。 江戸時代に元園町という町

文字遣い

新字新仮名

初出

「木太刀」1910(明治43)年11月、1911(明治44)年1月号

底本

  • 岡本綺堂随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2007(平成19)年10月16日