おじとおいと
叔父と甥と ――甲字楼日記の一節――

冒頭文

大正九年十月九日、甥の石丸英一逝く。この夜はあたかも嫩会(ふたばかい)の若き人々わが家にあつまりて劇談会を催す例会の夕(ゆうべ)なりしかば、通知するまでもなく皆々来りあつまる。近親の人々もあつまりて回向(えこう)す。英一は画家として世に立つべき志あり。ことしの春に中学を卒(お)えたれば、あくる年の春には美術学校の入学試験をうけんといい、その準備のために川端画学校に通いいたるに、かりそめの感冒が大い

文字遣い

新字新仮名

初出

「木太刀」1920(大正9)年12月号

底本

  • 岡本綺堂随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 2007(平成19)年10月16日