しらねのふもと |
白峰の麓 |
冒頭文
一 小島烏水(こじまうすい)氏は甲斐(かい)の白峰(しらね)を世に紹介した率先者である。私は雑誌『山岳』によって烏水氏の白峰に関する記述を見、その山の空と相咬む波状の輪廓、朝日をうけては紅(くれない)に、夕日に映えてはオレンジに、かつ暮刻々その色を変えてゆく純潔なる高峰の雪を想うて、いつかはその峰に近づいて、その威厳ある形、その麗美なる色彩を、わが画幀に捉うべく、絶えず機会をうかがっていた。
文字遣い
新字新仮名
初出
「みずゑ」1910(明治43)年5月
底本
- 山の旅 明治・大正篇
- 岩波文庫、岩波書店
- 2003(平成15)年9月17日