ゆみまちより
弓町より

冒頭文

食ふべき詩(一) 詩といふものに就いて、私は随分、長い間迷うて来た。 啻(ただ)に詩に就いて許りではない。私の今日迄歩いて来た路は、恰度(ちやうど)手に持つてゐる蝋燭の蝋の見る〳〵減つて行くやうに、生活といふものゝ威力の為に自分の「青春」の日一日に滅されて来た路筋である。其時々々の自分を弁護する為に色々の理窟を考へ出して見ても、それが、何時でも翌る日の自分を満足させなかつた。蝋

文字遣い

新字旧仮名

初出

「東京毎日新聞」1909(明治42)年11月30日、12月2日~7日

底本

  • 石川啄木全集 第四巻 評論・感想
  • 筑摩書房
  • 1980(昭和55)年3月10日