たなださいばんちょうのかいし |
棚田裁判長の怪死 |
冒頭文
一 家老屋敷 その不可解な死を遂げた判事の棚田晃一郎氏だけは子供の時分からよく知っています。私とは七つ八つくらいも年が違っていたかも知れませんから、学校や遊び友達が一緒だったというのではありませんが、棚田の家は広い田圃(たんぼ)を距(へだ)てて私の家とちょうど向合いになっていました。私の父はその頃この小さな町の農事試験場の技師をして、官舎に住んでいましたが、田圃を距てた埃(ほこり)っぽい昔の
文字遣い
新字新仮名
初出
「オール読物」1953(昭和28)年5月
底本
- 橘外男ワンダーランド 怪談・心霊篇
- 中央書院
- 1996(平成8)年6月10日