ごじゅうのとう
五重塔

冒頭文

其一 木理(もくめ)美(うるわ)しき槻胴(けやきどう)、縁にはわざと赤樫(あかがし)を用いたる岩畳作りの長火鉢(ながひばち)に対(むか)いて話し敵(がたき)もなくただ一人、少しは淋(さび)しそうに坐(すわ)り居る三十前後の女、男のように立派な眉(まゆ)をいつ掃(はら)いしか剃(そ)ったる痕(あと)の青々と、見る眼も覚(さ)むべき雨後の山の色をとどめて翠(みどり)の匂(にお)いひとしお床し

文字遣い

新字新仮名

初出

「国会新聞」1891(明治24)年11月~1892(明治25)年4月

底本

  • 日本の文学 1 坪内逍遙 二葉亭四迷 幸田露伴
  • 中央公論社
  • 1970(昭和45)年1月5日