くものにっき |
雲の日記 |
冒頭文
明治卅一年十二月十五日 朝晴れて障子(しょうじ)を開く。赤ぼけたる小菊二もと三もと枯芒(かれすすき)の下に霜を帯びて立てり。空青くして上野の森の上に白く薄き雲少しばかり流れたるいと心地よし。われこの雲を日和雲と名づく。午後雨雲やうやくひろがりて日は雲の裏を照す。散り残りたる余所(よそ)の黄葉淋(さび)しげに垣ごしにながめらる。猫のそのそと庭を過ぐ。 十六日 快晴、雲なし。 十七日 雲なく風なし
文字遣い
新字旧仮名
初出
「ホトトギス 第二巻第四号」1899(明治32)年1月10日
底本
- 飯待つ間
- 岩波文庫、岩波書店
- 1985(昭和60)年3月18日