あるしょっこうのしゅき |
ある職工の手記 |
冒頭文
私の家はどういふわけか代々続いて継母の為に内輪がごたくさした。代々と云つても私は自分の生れない以前のことは知らぬが、父の時代が既にさうであつた。父は早く実母に死なれて継母にかゝつた。その継母に幾人もの男の子が出来て、父は我が家にゐるのが面白くなくなつて遂(つひ)に家を飛び出した。父は長男であつたが亡父の遺産を満足に受けつぐことも出来なかつた。それは継母の奸策(かんさく)の為めであつた。
文字遣い
新字旧仮名
初出
「改造」1919(大正8)年9月号
底本
- 現代日本文學大系 49 葛西善藏 嘉村礒多 相馬泰三 川崎長太郎 宮路嘉六 木山捷平 集
- 筑摩書房
- 1973(昭和48)年2月5日