しゅうちょう |
酋長 |
冒頭文
朝子が原稿を書く為に暮れから新春へかけて、友達から貸りた別荘は、東京の北端(はず)れに在った。別荘そのものはたいしたことはないが、別荘のある庭はたいしたものだった。東京でも屈指の中であろう。そして、都会のこういう名園がだんだんそうなるように、公開的の性質を帯び、春から秋までは、いろいろな設備をして入場者を遊ばせるのである。しかし、冬は手入れかたがた閉場しているので、まるで山中の静けさだった。
文字遣い
新字新仮名
初出
「旅」1938(昭和13)年2月号
底本
- 岡本かの子全集4
- ちくま文庫、筑摩書房
- 1993(平成5)年7月22日