よばれしおとめ
呼ばれし乙女

冒頭文

師の家を出てから、弟子の慶四郎は伊豆箱根あたりを彷徨(うろつ)いているという噂(うわさ)であった。 一ヶ月ばかり経つと、ある夜突然師の妹娘へ電報をよこした。 「ハコネ、ユモト、タマヤ、デビョウキ、アスアサキテクレ」 受取って玄関で開いた千歳は、しばらく何が何やら判らなかった。慶四郎と姉となら、一時、ああいう話もあったのだから呼出すもよい。妹の自分を名指して何故だろう——いつの

文字遣い

新字新仮名

初出

「令女界」1938(昭和13)年8月号

底本

  • 岡本かの子全集5
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1993(平成5)年8月24日