ながさきのかね |
長崎の鐘 |
冒頭文
その直前 昭和二十年八月九日の太陽が、いつものとおり平凡に金比羅山から顔を出し、美しい浦上は、その最後の朝を迎えたのであった。川沿いの平地を埋める各種兵器工場の煙突は白煙を吐き、街道をはさむ商店街のいらかは紫の浪とつらなり、丘の住宅地は家族のまどいを知らす朝餉(あさげ)の煙を上げ、山腹の段々畑はよく茂った藷の上に露をかがやかせている。東洋一の天主堂では、白いベールをかむった信者の群が、人
文字遣い
新字新仮名
初出
「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日
底本
- 長崎の鐘
- サンパウロ
- 1995(平成7)年4月20日