うじのこうよう
蛆の効用

冒頭文

虫の中でも人間に評判のよくないものの随一(ずいいち)は蛆(うじ)である。「蛆虫めら」というのは最高度の軽侮(けいぶ)を意味するエピセットである。これはかれらが腐肉(ふにく)や糞堆(ふんたい)をその定住の楽土(らくど)としているからであろう。形態的(けいたいてき)には蜂(はち)の子やまた蚕(かいこ)とも、それほどひどくちがって特別に先験的(せんけんてき)に憎(にく)むべく、いやしむべき素質(そしつ)

文字遣い

新字新仮名

初出

「自由画稿」1935(昭和10)年2月

底本

  • 科学と科学者のはなし 寺田寅彦エッセイ集
  • 岩波少年文庫、岩波書店
  • 2000(平成12)年6月16日