じんぶつについて |
人物に就いて |
冒頭文
ちかごろ、歴史的人物で興ふかきは、やはり、乃木大將である。私、さきごろまでは、大鹽平八郎を讀んでゐた。かれが、ひとりの門弟と論爭して、お膳のかながしらの頭をがりがり噛んで食べた、ことなど、かれの人となりを知るに最もよきエピソオドであらう。けれども、いままた、乃木將軍が、よみがへつて來て居る。一望千里の滿洲の赤土の原、あかあかと夕燒にてらされ、ひとり馬で歩いて居る猫背の乃木將軍のすがたが、この眼に見
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「東奥日報 第一五五八七号」1936(昭和11)年1月1日
底本
- 太宰治全集11
- 筑摩書房
- 1999(平成11)年3月25日