このごろ
このごろ

冒頭文

(一) 南洋パラオ島の汽船會社に勤めてゐる從兄があります。名前を云へばわかるかも知れませぬが、わざと書かない。この從兄は十年前に或る政治運動に獻身して捕へられ、殆ど十年近く世の中から遮斷せられ、このごろ出ることを許され、今は南洋パラオ島で懸命に働いてゐるのであります。先日南洋から手紙が來て「東京の家にはお前の唯一人の叔母たる小生の母と、小生の妹と家内と三人で侘しく留守をしてゐるから一度訪

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「國民新聞 第一七三〇九号~第一七三一一号」1940(昭和15)年1月30日~2月1日

底本

  • 太宰治全集11
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年3月25日