どんらんか
貪婪禍

冒頭文

七月三日から南伊豆の或る山村に來てゐるのだが、勿論ここは、深山幽谷でも何でもない。温泉が湧き出てゐるといふだけで、他には何のとるところも無い。東京と同じくらゐに暑い。宿の女中も、不親切だ。部屋は汚く食事もまづい。なぜこんな所を選んだのかと言へば、宿泊料が安いだらうと思つたからである。けれども、來て見ると、あまり安くもない。一泊五圓以上だ。一日の豫定の勉強が濟んで、温泉へ入り、それから夕食にとりかか

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「京都帝國大學新聞 第三百十七号」1940(昭和15)年8月5日

底本

  • 太宰治全集11
  • 筑摩書房
  • 1999(平成11)年3月25日