たびのこと |
足袋のこと |
冒頭文
僕は、これで、白足袋といふものは、未だ嘗てはいたことはないんだぜ——。 久保田氏は、往来に出ると、さういふ意味のことを、もつと歯切れのいゝ言葉で、だがいかにも何らかの弁明らしくティミッドな調子で、突然ポンと云つた。さう云はれたので初めて私が久保田氏の足もとに眼を注ぐと、そこにはちやんと雪白の足袋を着用した足が性急に運ばれてゐるのである。私はもう少しで「ぢや、それはどうしたの?」と訊き返す
文字遣い
新字旧仮名
初出
「新潮 第四十巻第六号(六月号)」新潮社、1924(大正13)年6月1日
底本
- 牧野信一全集第二巻
- 筑摩書房
- 2002(平成14)年3月24日