しょうそくしょう(ちかごろかいたあるわたしのてがみから。) |
消息抄(近頃書いた或る私の手紙から。) |
冒頭文
母家 何故現在の住所を書いて寄さないのか? と屡々汝に云はれるが、汝との手紙が一回往復される間には大概予の居住は変つてしまふのだ! あれ以来予は既に三個所も居を移してゐる、いつも田舎の母家を予の宛名にはしてゐるが。哀れな母家は当分あの儘で汝も知つてゐるあの田舎に、形こそ違つたが存続するだらう。予も何時其処に帰るかも解らない。母家が存続する限り汝は、予の寓居を知りたがる必要はないだらう。
文字遣い
新字旧仮名
初出
「文藝春秋 第四巻第二号(二月号)」文藝春秋社、1926(大正15)年2月1日
底本
- 牧野信一全集第二巻
- 筑摩書房
- 2002(平成14)年3月24日