ぼくのうんどう |
僕の運動 |
冒頭文
僕は田舎にゐると毎朝毎夕欠かすことなく不思議に勇壮な運動を試みます。運動には相違ありませんが僕のは体育や精神修養やの目的ではなくて、朝(あした)は竜巻になつて襲ふて来る煙りに似た悲しみと闘ひ、夕べは得体の知れぬ火に似た情熱に追はれて奮戦し——といふ風な孤独の騒ぎで、だから僕は馬に乗る、オートバイで駆け廻る、フエンシングの練習をしてゐる、棒高飛びをする、機械体操を試みる、大酒を喰ふ、舟を漕ぐ、夫婦喧
文字遣い
新字旧仮名
初出
「スバル 第二巻第五号(五月号)」太白社、1930(昭和5)年5月1日
底本
- 牧野信一全集第三巻
- 筑摩書房
- 2002(平成14)年5月20日