りんらくのおんなのにっき
淪落の女の日記

冒頭文

「もう少し愛があれば、誰もこんなところに落ち込みはしないのだ。」 これが、この物語の主題である。「パンドラの箱」は見損つたが、次のルイズ・ブルツクスものと聞いて、ブルツクスは常々僕の西洋映画女優中の最も好きな女優で——余談を許したまへ、僕の田舎の書斎の壁には、彼女のために二つの額ぶちが備へられてあり、その一つの小さい丸額には彼女の半身の素顔が収まつて、時々僕の冷い凝視を浴び、別の稍大きな角額

文字遣い

新字旧仮名

初出

「映画時代 第八巻第五号(五月号)」文藝春秋社、1930(昭和5)年5月1日

底本

  • 牧野信一全集第三巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年5月20日