みさきのはるがずみ |
岬の春霞 |
冒頭文
いつまでつゞくか、仮寝の宿——わたしは、そのとき横須賀に置いた家族から離れて湘南電車で二駅離れた海ふちの宿にゐた。東京からあそびに来てゐる若い友達のRと、文学と人生のはなしに耽つてゐると、飛行機の爆音が、屋根裏にとゞろいて、耳を聾し、はなし声を消して、ふたりは黙劇(パントマイム)の人物のやうに、眼を視合せたり、上眼をつかつたりするだけだつた。 窓に乗り出して、さかさまに見る海のやうな青空
文字遣い
新字旧仮名
初出
「東京日日新聞 第二一〇二四号~第二一〇二七号」東京日日新聞社、1935(昭和10)年2月13日~16日
底本
- 牧野信一全集第五巻
- 筑摩書房
- 2002(平成14)年7月20日