しんきこうしんがかいふくす
心悸亢進が回復す

冒頭文

今年の一月ごろから僕は持越の神経衰弱が、いよ〳〵あざやかになつて都会を離れなければならなかつた。永年飲みなれた酒が全く文字通りに一杯も口に入らず、無理矢理に注ぎ込まうと試みると、いさゝかの酔も感ぜぬうちに忽ち吐き出して了ふのだつた。そして間断もなく不気味な心悸亢進に悩まされ続けるのである。それらの症状に就いて云云すれば際限もないはなしであるが、いつも〳〵不快で憂鬱で厭世的であつた。折から、偶々旧知

文字遣い

新字旧仮名

初出

「経済往来 第十巻第六号(六月号)」日本評論社、1935(昭和10)年6月1日

底本

  • 牧野信一全集第六巻
  • 筑摩書房
  • 2003(平成15)年5月10日