ランプのめいめつ
ランプの明滅

冒頭文

試験の前夜だつた。彼はいくら本に眼を向けてゐても心が少しもそれにそぐはないので——で、落第だ——と思ふと慄然とした。と、同時に照子の顔が彷髴として眼蓋の裏へ浮んだ。彼にとつて照子の存在が、彼が落第を怖れる唯一の原因となつてゐたので、然も彼は非常に強く照子の存在を意識してゐたから、非常に落第を怖れた。何故なら、 「妾、秀才程美しい感じのするものはないと思ふわ。妾は秀才といふ文字だけにでも、妾の

文字遣い

新字旧仮名

初出

「十三人 第二巻第三号(三月号)」十三人社、1920(大正9)年3月1日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日