こうすいのにじ |
香水の虹 |
冒頭文
窓帷(カーテン)をあけて、みつ子は窓から庭を見降した。やはらかな朝の日射が、ふかぶかと花壇の草花にふりそゝいでゐる。 姉はカーネーシヨンの花が好きだつた。花壇の隅に美しく咲き誇つてゐる桃色の花を眺めながら、みつ子は姉のことをしきりに想ひつゞけた。きらきらと映へた外光はもの懐しく流れてゐる。 姉様がお嫁に行つてしまつてから、もう一年たつたのだ。みつ子は今更のやうにそんなことを考へ
文字遣い
新字旧仮名
初出
「少女 第一〇九号(新年号)」時事新報社、1921(大正10)年12月8日
底本
- 牧野信一全集第一巻
- 筑摩書房
- 2002(平成14)年8月20日