ちきゅうぎ
地球儀

冒頭文

祖父の十七年の法要があるから帰れ——といふ母からの手紙で、私は二タ月振り位ひで小田原の家へ帰つた。 「此頃はどうなの?」私は父のことを訊ねた。 「だん〳〵悪くなるばかり……」母は押入を片附けながら云つた。続けて、そんな気分を振り棄てるやうに、 「此方の家はほんとに狭くて斯んな時には全く困つて了ふ。第一何処に何が蔵つてあるんだか少しも解らない。」などと呟いてゐた。 「僕の事をおこつてゐま

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝春秋 第一巻第七号(七月創作附録号)」文藝春秋社、1923(大正12)年7月1日

底本

  • 牧野信一全集第一巻
  • 筑摩書房
  • 2002(平成14)年8月20日