はんにち
半日

冒頭文

六疊の間に、床を三つ並べて取つて、七つになる娘を眞中に寢かして、夫婦が寢てゐる。宵に活けて置いた桐火桶の佐倉炭が、白い灰になつてしまつて、主人の枕元には、唯ゞ心(しん)を引込ませたランプが微かに燃えてゐる。その脇には、時計や手帳などを入れた小葢が置いてあつて、その上に假綴の西洋書が開(あ)けて伏せてある。主人が讀みさして寢たのであらう。 一月三十日の午前七時である。西北の風が強く吹いて、

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「昴 第三號」1909(明治42)年3月1日

底本

  • 鴎外全集 第四卷
  • 岩波書店
  • 1972(昭和47)年2月22日