さんかいのいえ |
三階の家 |
冒頭文
三階の家は坂の中程にあった。向う側は古い禅寺の杉の立木が道路の上へ覆いかかり、煉瓦(れんが)造りの便所の上まで枝を垂れていた。こんな坂の中途に便所がどうして建っているのか。一寸(ちょっと)不思議な気がする、——その便所の廂(ひさし)へ瓦斯燈(ガスとう)がさびしく点(とも)れていた。 三階の一階は小間物屋を兼ねた店につづいて、造花屋があり、その隣は八百屋であった。二階は全部何時(いつ)も借
文字遣い
新字新仮名
初出
「苦楽」1926(大正15)年12月号
底本
- 文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子
- ちくま文庫、筑摩書房
- 2008(平成20)年9月10日