どうじ |
童子 |
冒頭文
一 母親に脚気(かっけ)があるので母乳はいっさい飲まさぬことにした。脂肪の多い妻は生ぬるい白い乳をしぼっては、張ってくると肩が凝ってならないと言って、陶物(すえもの)にしぼり込んでは棄てていた。少しくらいなら飲ませてもよいと云う樋口さんの説ではあったが、私はそれに反対し、妻もそれに同意した。脚気症の母乳はよく赤児(あかご)の脳を犯すことや、その取り返しのつかない将来(すえ)のことを思うと
文字遣い
新字新仮名
初出
「中央公論」1922(大正11)年10月号
底本
- 文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子
- ちくま文庫、筑摩書房
- 2008(平成20)年9月10日