りっしゅんのたまご
立春の卵

冒頭文

立春の時に卵が立つという話は、近来にない愉快な話であった。 二月六日の各新聞は、写真入りで大々的にこの新発見を報道している。もちろんこれは或(あ)る意味では全紙面を割(さ)いてもいいくらいの大事件なのである。 昔から「コロンブスの卵」という諺(ことわざ)があるくらいで、世界的の問題であったのが、この日に解決されたわけである。というよりも、立春の時刻に卵が立つというのがもし本統な

文字遣い

新字新仮名

初出

「世界」1947(昭和22)年4月1日

底本

  • 中谷宇吉郎随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1988(昭和63)年9月16日