なんがをかくはなし
南画を描く話

冒頭文

昨年の春から、自分では南画と称しているところの墨絵を描くことを始めた。 南画を描くなどというと、段々年をとると、油絵よりも墨絵の方が良くなるそうだねなどと冷(ひや)かされることもある。しかし私の場合は、そういう趣味が枯れて来たなどという洒落(しゃ)れた話ではなく、もっと現実な理由があるのである。 それはこの頃のように段々忙しくなって来ては、どうにも油絵など描いている閑(ひま)は

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1941(昭和16)年7月1日

底本

  • 中谷宇吉郎随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1988(昭和63)年9月16日