しまづなりあきらこう
島津斉彬公

冒頭文

昭和十九年の暮に、岩波文庫の一冊として『島津斉彬言行録』が出版された。これには牧野伸顕(まきのしんけん)伯(はく)の序文がついている。 当時既に日本は断末魔の境にあり、この本なども、ぼろぼろの藁半紙(わらばんし)のような紙に印刷されているまことに粗末な本であるが、これは私にとっては、大切な本の一つである。 牧野伯とは、思わぬ機縁で、今度の戦争の初め頃から、時々御目(おめ)にかか

文字遣い

新字新仮名

初出

「西日本新聞」1955(昭和30)年10月20日

底本

  • 中谷宇吉郎随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1988(昭和63)年9月16日