『さいゆうき』のゆめ
『西遊記』の夢

冒頭文

子供の頃読んだ本の中で、一番印象に残っているのは、『西遊記』である。 もう三十年も前の話であり、特に私たちの育った北陸の片田舎には、その頃は子供のための本などというものはなかった。 子供たちは、大人の読み古した講談本などを、親に叱(しか)られながら、こっそり読んでいた。その頃盛(さかん)に出ていた小波(さざなみ)氏の「世界お伽噺(とぎばなし)」のようなものも滅多に手に入らなかっ

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝春秋」1943(昭和18)年1月1日

底本

  • 中谷宇吉郎随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1988(昭和63)年9月16日