いっぴきのこんちゅう |
一疋の昆虫 |
冒頭文
一疋の足の細長い昆虫が明るい南の窓から入ってきた 昆虫の目指すは北 薄暗い北 病室のよごれひびわれたコンクリートの部厚い壁、 この病室には北側にドアーがありいつも南よりはずっと暗い 昆虫は北方へ出口を見出そうとする 天井と北側の壁の白堊を叩いて ああ幾度往復しても見出されぬ出口 もう三尺下ってドアーの開いている時だけが 昆虫が北へぬける唯一の機会だが、 昆虫には機会がわからず
文字遣い
新字新仮名
初出
「詩精神」1935(昭和10)年6月号
底本
- 日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)
- 新日本出版社
- 1987(昭和62)年6月30日