1 刑事弁護士の尾形博士は法廷から戻ると、久しぶりにゆっくりとした気分になって晩酌の膳にむかった。庭の新緑はいつか青葉になって、月は中空にかかっていた。 うっすらと化粧をした夫人が静かに入って来て、葡萄酒の瓶をとりあげ、 「ずいぶん、お疲れになったでしょう?」と上眼使いに夫を見上げながら、ワイン・グラスになみなみと酒を注いだ。 「うむ。だが、——長い間の責任をすましたの