一、暗号(コード) 応接室に入った時、入れ違いに出て行った一人の紳士があった。 「あれは私の従兄(いとこ)なんですよ」 S夫人は手に持っていたノートを私に渡しながら、 「お暇があったら読んでみて頂戴な。あの従兄が書いたんですの」 「文学でもなさる方ですの?」 「否(いい)え、商売人なんです。最初の目的は別の方面にあったのですが、若い時はちょっとした心の弛みから、飛んでも