一 会社を退出した時には桃子にも連れがあったので、本庄とは別々の電車に乗ったが、S駅を降りると、彼はもう先に着いて待っていた。 二人は腕を組んで夕闇の迫った街を二三町も歩くと、焼け残った屋敷街の大きな一つの門の前に立ち止った。 桃子は眼を丸るくして、門冠りの松の枝を見上げ、 「あんた、このおやしき?」 「うん。素晴らしいだろう? 会社への往きかえりに毎日前を通