てつのしょじょ |
鉄の処女 |
冒頭文
1 寒い日の午後だった。 私は河風に吹かれながら吾妻橋を渡って、雷門の方へ向って急ぎ足に歩いていた。と、突然後からコートの背中を突(つっ)つくものがあるので、吃驚(びっくり)して振り返って見ると、見知らない一人の青年が笑いながら立っていた。背の高い、細長い体に、厚ぼったい霜降りの外套を着て、後襟だけをツンと立てているが、うす紅色の球の大きなロイド眼鏡をかけている故(せい)か眼の
文字遣い
新字新仮名
初出
「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月
底本
- 大倉燁子探偵小説選
- 論創社
- 2011(平成23)年4月30日